保険が社会のさまざまなリスクに対して、経済的損失を補う非常に有効なツールであることは間違いありません。
しかし、一方で保険料という大きな出費を背負わされることにも注意を払わなければなりません。
なかでも、国民の多くが加入している民間の医療保険については賛否が分かれますが、1度立ち止まって再考する必要があります。
目次
医療保険の加入を否定する人の主な意見
医療保険への加入を否定する人たちの意見を集約すると主に以下の3つになります。
否定の理由1:平均入院日数の減少傾向
近年の医療の進歩または病院側の経営上の理由などもあって、平均入院日数は明らかに減少傾向にあります。
これは保険商品の根幹を直撃する不利なデータです。
そもそもこれまでの民間の医療保険は、入院や手術といったリスクに山を張った制度設計になっています。
その軸ともいえる入院日数が減少しているということは、以前より割増の保険料を払わされているとも言えるのです。
否定の理由2:高額療養費制度の存在
高額療養費制度は、医療費の月額の自己負担額の上限が、一定の金額で決められている制度です。
所得にもよりますが、病気による治療費がすべて合わせてもせいぜい十数万円程度と見込むことができるため、治療費が無尽蔵に膨れ上がることはありません。
私たちが普段払っている公的な医療保険制度には、このようにありがたい制度が組み込まれているのです。
否定の理由3:約款主義
約款主義とは、聞きなれないワードかもしれません。
医療保険に加入した人は、加入した年の約款に基いた保険契約を履行されるのです。
今年の保険であれば、2020年現在の医療技術、治療方法に縛られた約款が作られます。
保険の契約は長期にわたります。
何十年も経過する間には思いもよらない技術革新があり、約款では想定していなかった新しい手術法や治療法が開発されていく
でしょう。
現在であれば当然入院すべき病であっても、将来は通院や自宅療養で済んでしまうかもしれないのです。
こうなると、病気で治療費がかさむのに入院をしないために給付金が払われないケースが想定されるわけです。
医療保険の商品設計が入院給付金、手術給付金といった限定されたリスク対応である以上、将来この保険商品はハズレ馬券と化してしまうのです。
医療保険への考え方はリスクに対する各自の見解の相違もあって、何が正解か断言はできません。
しかし、今後は入院や手術といった概念は徐々に消滅して、医療保険の形も大きく変わっていくことになるでしょう。
医療費対策は「保険」より「貯蓄(預金・貯金)」
本来、保険とは「不測の事態が発生した際に貯蓄でのリカバリーが不可能である事案を補うもの」と考えられています。
入院や手術などの治療費がこうした定義に該当するか否かは慎重に検討する必要があります。
たとえば、
・ 自動車事故での賠償金
・ 火災による家屋の焼失
・ 幼いお子さんがいる家庭における世帯主の死亡
などは、大きな損害額が予想されることから保険でカバーする事案に該当します。
いずれもそのために貯蓄をしておくといった性格のものではありません。
自分の医療用預金口座を開設
医療費の対策は、
保険ではなく自分専用の医療用預金口座を開設して、本来保険会社に払う保険料をそのまま積み立てていく
方が合理的です。
こうした提案に対して「積立が十分ではない早期の入院への対応が不十分では?」と言われます。
しかし、そもそも加入してそれ程日数が経過していない場合に保険金の早期の支給リスクを回避しているのが保険会社です。
そのために、入院をできる限り排除するために告知書や健康診断などでチェックをして、時には契約に条件を付けたり、契約を断るなどといったことをするわけです。
裏を返せば、医療保険に加入できる人は当面2年ほどは入院のリスクが低いため、積立をする時間的猶予はあると考えられます。
個人での積立は自由度が高い
個人で医療用の積立をすることによって、民間の医療保険に加入するよりも自由度ははるかに高くなります。
自由度の高さ(1)
約款がないため、お金の使途が制限されません。
医療に限らず介護資金にあててもかまいません。
極端に言えば、バクチに使うことさえできてしまうのです。
自由度の高さ(2)
審査も告知もないため、持病があっても口座を作れます。
すでに入院していても構いません。
自由度の高さ(3)
掛け捨てでないことに加えて元本保証されているため、保険でいうところの解約返戻金は常に100%を上回っています。
貯蓄は100大疾病保険
民間の医療保険では、よく3大疾病に対応といった商品アピールがあります。
なかには5大疾病、7大疾病といっていかにもお得感を強調していますが、医療用口座への積立はさながら100大疾病に対応可能な保険といったところです。
40歳のご夫婦が合算で月1万円をそのまま医療用積立に回すことにより、65歳までに約300万円が積み上がります。
仮にその間、高額療養費クラスの治療に5~6回使用したとしても、200万円程度は残るのです。
不払いリスクはありません
民間の保険会社を利用する際の注意点として、不払いリスクがあげられます。
保険会社は加入を勧める時には熱心ですが、いざ保険金や給付金を支払う段になると一転してシビアな調査をします。
保険会社側からすれば、多くの保険料をもらい、出ていくお金をできるだけ渋るほうが利益が出るわけですから、取り立てて批判することではありません。
しかし、この支払いの判断の厳しさは、加入者側からすれば軽視できないことです。
当然のことながら貯蓄であればお金を引き出す際の不払いリスクは存在しません。
資金の流動性が確保される
医療費のリスクを「保険」ではなく「貯蓄」で補うという提案は、現在の不確実で多様化している社会においては、資金の流動性を確保するという意味でも極めて重要な考え方なのです。